大司教
ミャンマーの状況を憂慮しながら
2021年02月02日
ミャンマーで2月1日、アウン・サン・スー・チー国家顧問ら与党関係者が国軍によって拘束され、軍出身のミン・スエ副大統領が大統領代行となって非常事態宣言を発令したと伝えられています。昨年の国政選挙の結果に対する反発から、軍によるクーデターであるとも報道されています。
わたし自身、三十年以上前に、当時まだ軍事独裁政権下にあった西アフリカのガーナで8年ほど生活していましたが、その間にも幾たびかクーデター未遂事件が起こり、首都には夜間外出禁止令が出たりしたことがありましたが、それがすぐに、わたしが住んでいた田舎の生活に直接の影響を及ぼすようなことはありませんでした。ですから、今回の出来事がそれ自体として、即座に全国的な生活の変化などとして大勢の人の身に危険が及ぶことはないでしょうが、しかし、長期的に見れば、民主化後に経済が発展し生活が安定してきた国家のこれからには、マイナスの影響を残しかねません。
加えて、以前から少数民族が数多くあるミャンマーでは、それに起因する政治的不安定さが、時に暴力的な対立を各地で生んできたのであり、その中で、カトリック教会も、仏教国での少数派とはいえ、さまざまな影響を受けてきました。ロヒンギャの問題が近年では大きく取り上げられますが、それ以外にも少数民族を巻き込んだ不安定要素は多くあり、民主化が進んで、政治から軍が切り離されていくことが、さらなる安定への道だと思いましたから、今回の件は本当に残念です。
中国の問題などと同様、現時点で現地の教会からの要請があるわけではありませんから、今の立場で直接ミャンマーの内政への批判的な言説を行うことは控えたいと思いますが、しかし、国家の舵取りをする方々には、複雑な民族構成の中で、一部の利益ではなく全体の善益を考慮に入れて行動をしてほしいと思いますし、民主的な選挙の結果を暴力的に覆すことは認められるべきではありません。異なる意見を力を持って封じ込めることも、認められるべきではありません。一日も早く事態が収束することを、心から祈ります。
東京大司教区はかねてより、ミャンマーの教会を支援してきました。現在でも、教区内の小教区に所属されるミャンマー出身の信徒の方々がおられます。故郷のことを思い、どれほど心配されていることでしょう。故郷が、安心と安定を取り戻すように、心から願います。
東京教区のミャンマーの教会支援の歴史は、ケルン教区との関係にさかのぼります。そのあたりは教区のホームページをご覧ください。1979年以降、東京教区はケルンと協力しながらミャンマーの教会支援を行い、特に11月の第三日曜日をミャンマーデーと定めて、支援のための献金やお祈りをお願いしてきました。近年では、ミャンマー国内の神学校建設などを支援しており、昨年2020年2月には、担当のレオ神父、高木健次神父の二人に引率されて、わたしも含めた東京の司祭団で、支援先の神学校などを訪問してきました。写真は昨年2月のミャンマー訪問のときのものです。ちなみに、わたしにとっては、この昨年2月のミャンマー訪問が、今に至るまでで最後の飛行機の旅(国内外併せて)でありました。次に訪問できるのは、いったいいつになることでしょう。
さてわたしはカリタスジャパンの視察で、2003年に初めてミャンマーを訪れて以来、幾たびかの訪問を重ねてきましたが、昨年2月に訪れたときと2003年の初めての訪問の時の印象とを比較すると、実際に国全体が大きく発展していると感じました。2003年の時は、携帯も使えず、地方へ夜行バスで移動した際には、公安とみられる人物が、ずーっと後ろをついてきていました。民主化が進み、着実に経済も発展し、社会全体が安定してきていると昨年2月には感じましたから、今回の出来事はマイナスの方向に引き戻す力として、本当に残念です。
ミャンマーの安定のために、人々の安全と安心のために、お祈りください。またミャンマーの教会のために、これまで以上のお祈りをお願いいたします。