教区の歴史
年始の集いミサでの挨拶
2011年01月09日
2011年1月9日 東京カテドラル聖マリア大聖堂にて
皆さん、新年おめでとうございます。
過ぎ去った2010年を振り返りますと、まことに感慨深いものがあります。
わたくしは、一昨年の司祭の年末集会で2010年は「司祭安息年」にしたいと申し上げました。ところがそのあとの2009年12月30日、白柳枢機卿様がお亡くなりになりましたので、はからずも2010年は、「司祭安息年」とともに、枢機卿追悼の年ともなりました。
昨年の6月11日(イエスのみ心の祭日)「司祭年」終了に際し、わたくしは「司祭の休養・霊的生活の刷新」を訴える書簡を発表することができました。
また構内再構築計画が無事に進行し、本年は新しい司祭の家『ペトロの家』が完成し、10月2日には祝福式が行なわれました。皆さんの祈りと献金に感謝いたします。現在は旧司祭の家を改修中で、完成後は大司教館になる予定です。
さて今の日本の社会はどんな状況に置かれているでしょうか?わたくしにはまことに衝撃的な言葉が心に浮かんでまいります。それは「無縁社会」『無縁死』という言葉です。日本の社会は従来「血縁、地縁、社縁」という縁(えにし)で結ばれていたと言われます。家族というつながり、住んでいる土地の隣近所の人々とのつながり、終身雇用の会社での人間のつながりにより、人々助け合い支えあっていたのです。
ところがこのつながりがゆるくなり、弱くなり、あるいは壊れてしまっています。いまや日本の社会は『無縁社会』になっている、というのです。そして、孤独のままなくなる「孤独死」、遺体の引き取り手のない死を『無縁死』が増えていると報道されています。その数は年間3万2千人にも及ぶとのことです。
このような無縁社会の中でわたしたちキリスト教信者は、どのような縁(えにし)で結ばれているのでしょうか?
言うまでもなく、わたしたちは父と子と聖霊の交わりによって結ばれ、つながっています。神様とのつながりの中、この社会に新しい神の家族をつくり広げていく、という使命をあたえられています。わたしたち教会は、現代社会のなかに、信仰、希望、愛でという縁(えにし)で結ばれる神の家族を築き広げていきたいと心から願っています。
おりしも今年は日本カトリック司教団が『いのちへのまなざし』というメッセージを出して10周年であります。
メッセージの冒頭で司教たちは次のように言いました。
「キリストの降誕2000年を契機として、わたしたち日本のカトリック教会の司教たちは、信仰を同じくする信徒、司祭、修道者だけでなく、新しい世紀を生きるすべての人に、いのちの尊さを訴えるこのメッセージを送ります。それは、新たに始まった世紀の歩みとその発展が、神から与えられたかけがえのないいのちを尊び、互いへの深い敬意と揺るぎない信頼の上に立って、国家、民族、言語,信条、宗教の違いを超えた共生の文化を築き上げることを願ってのことです。」(『いのちへのまなざし』1)
今読み直して見ても、大変新鮮かつ有益で時宜に適った分かりやすい内容であります。10年経ち、いのちをめぐる現実はますます深刻なものとなっています。この機会に是非このメッセージを取り上げ、輪読会・勉強会を開いたり、研修会を開催したり、話し合いの機会を設けるなどして頂きたいと思います。
もう一つ是非呼んでいただきたい司教団の文書があります。それはカリタスジャパン啓発部会が発行した小冊子『自死の現実を見つめて―教会が生きる支えとなるために―』です。
ご存知のように日本では連続13年間自死者が3万人を越えています。この現実をどうみたらいいのでしょうか?
この冊子はなぜ「自殺」ではなく「自死」という言葉を使うか、説明しています。また自殺についての従来の教会の態度を反省しています。そして自死の背景には「孤立」ということがあると指摘しています。
「人が自死する根本的な理由には『誰ともつながっていない』と思い込んでいる状態、あるいはそう思わざるを得ない状態があるのです。」
そして訴えています。
「この孤立と戦うこと、神のもとに人と人とがつながって、互いに支え合えるような共同体を作っていくこと、これがわたしたち教会に今、問われている大きな課題ではないでしょうか。」
東京教区の優先課題の一つは「こころの問題」です。建物の再構築は5月頃終了する予定ですが、人と人とのつながりの再構築という課題は続きます。自死・無縁死の現実をみながら一人ひとりが大切にされる社会の建設のために尽くしたいと思います。また孤立している孤独な心と心をつなぐために教会は力を尽くしたいものです。
そこで、本年のキーワーズは「いのち」と「こころ」にしたいと思います。
「いのち」の尊厳を学びながら、「こころ」と「こころ」をつなぎ、神の家族をつくり広げていくという使命に励みたいと存じます。
今年の年賀状に記した祈りをもって挨拶の結びと致します。
静けさの祈り(Serenity Prayer)/ラインホールド・ニーバー
神さま、わたしにお与えください、
変えられないものを受け入れる心の静けさを、
変えられるものを変える勇気を、
そしてその二つを見分ける知恵を。