お知らせ

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名誉教皇ベネディクト16世の逝去にあたって

2023年01月01日

去る12月31日、名誉教皇ベネディクト16世が、95年にわたる人生を終え、帰天されました。長年にわたる教会への奉仕と導きに感謝しながら、御父の御許において永遠の安息があるように祈ります。

ベネディクト16世は、すでに第二バチカン公会議の時代に、新進気鋭の神学者として注目され、その後はミュンヘンの大司教を経て教皇庁の教理省長官に任命され、長きにわたって現代社会を旅する教会の神学的支柱として大きな影響を与えました。

教皇に就任された2005年、すでに78歳と高齢でしたので、限られた時間の制約の中で優先順位を明確にして普遍教会の司牧にあたられました。

世俗化が激しく進み教会離れが顕著な欧米のキリスト教国における信仰の見直しは、ベネディクト16世にとって最重要課題であったと思います。しかしそれをひとり欧米の課題にとどめることなく、普遍教会全体の課題として取り上げられ、「新福音宣教」を掲げてシノドスを開催し評議会を設立されました。2013年2月28日の退位は、歴史に残る決断でした。聖霊の導きに全幅の信頼を置く信仰者としての決断の模範を、明確にあかしされる行動でありました。

教皇就任以前に教理省長官として活躍された印象が強く残っていますが、わたしにとっては、「愛(カリタス)」を語る教皇でありました。それは、最初の回勅が「神は愛」であることに象徴されますが、ベネディクト16世は、教会における愛(カリタス)の業を重要視され、それが単に人間の優しさに基づくのではなく、信仰者にとって不可欠な行動であり、教会を形作る重要な要素の一つであることを明確にされました。当時、国際カリタスの理事会に関わっていたわたしにとっては、ベネディクト16世が、この分野に大きな関心を寄せられ発言されたことから、力強い励ましをいただきました。わたしはベネディクト16世は後代の歴史家から、「愛(カリタス)の教皇」と呼ばれるのではないかと期待しています。

2011年の東日本大震災の折りには被災された方々へ心を寄せ、被災地にサラ枢機卿をご自分の特使として派遣されました。その年の5月にローマでの国際カリタス総会の際に謁見があり、帰り際にわたしの席へ歩み寄ってくださり、被災者への慰めの言葉をいただいたことは忘れません。流布されるイメージとは異なり、優しさに満ちあふれた「愛(カリタス)」の教皇でありました。

名誉教皇ベネディクト16世の逝去にあたり、これまでの長年にわたる教会への貢献と牧者としての導きに感謝し、御父の懐にあって豊かな報いをうけられますように、永遠の安息を共にお祈りいたしましょう。

カトリック東京大司教区 大司教
菊地功