大司教

2020東京大司教区「平和メッセージ」

2020年08月06日

東京大司教区「平和メッセージ」
2020年8月6日 平和旬間
大司教 菊地功

 

「過去をふり返ることは、将来に対する責任を担うことです」

教皇ヨハネパウロ二世は、1981年に広島でこう述べられました。

今年、2020年は、節目の年でもあります。75年前の1945年、広島と長崎で核兵器が使用され数多くのいのちが奪われました。また、世界が巻き込まれた第二次世界大戦が、終わりを迎えました。この75年の間、戦争の悲惨な現実が繰り返し多くの人によって語り継がれてきたのは、戦争が災害のように避けることのできない自然現象ではなく、まさしく「戦争は人間のしわざ」であって、そもそも「人類は、自己破壊という運命のもとにあるものでは」ないからこそ、その悲劇を自らの力で避けることが可能であるからに他なりません。

教皇ヨハネ23世は、回勅「地上の平和」を、次の言葉で始め、教会が考える「平和」の意味を明らかにしています。

「すべての時代にわたり人々が絶え間なく切望してきた地上の平和は、神の定めた秩序が全面的に尊重されなければ、達成されることも保障されることもありません」

教会が語る「平和」とは、神の定めた秩序が実現している世界、すなわち神が望まれる被造物の状態が達成されている世界であり、それは実現してはいません。

今年の初めから、わたしたちは経験したことのない事態のただ中におります。新型コロナウイルスの感染症は一つの国に留まらず、いまや世界中を巻き込んで拡大し、まさしくグローバル化した世界を巻き込んで各地に多大な影響を与えています。多くの方が大切ないのちをなくされた国も多数存在し、今この時点でも、いのちの危機に直面している人は少なくありません。また社会的に弱い立場にある人や貧しさのうちにある人は、より厳しい危機に直面しています。

グローバル化した世界を巻き込んで発生したいのちの危機は、その解決のためにも、世界全体の視点からの連帯と支え合いが必要であることを明確にしています。

教皇フランシスコの指示を受けて、この危機に総合的に対処するために、教皇庁にはCovid-19委員会が設置されました。その責任者であるタークソン枢機卿は、7月7日に会見を開き、次のように述べておられます。

「わたしたちの世界には、一致のきずなを回復し、誰かをスケープゴートにせず、互いの批判合戦を止め、卑劣な国家主義を否定し、孤立化を否定し、そのほかの利己主義を否定するようなリーダーシップが必要だ」

 不安の闇に取り残されたように感じているわたしたちは、ともすれば誰かを悪者に仕立て上げることで、自分の心の安心を得ようと誘惑されてしまいます。いのちの危機は、排除や排斥がもたらす分断によって、より深められてしまいます。いまは対立するときではなく、いのちを守るために、互いに手を差し伸べ合うときです。いのちを奪うことではなく、守るために行動するときです。

「平和を実現する人々は、幸いである。その人たちは神の子と呼ばれる」

わたしたちは、あらためて主のこの言葉に励まされ、神が大切にされるたまものであるいのちが等しく大切にされ尊重される世界を実現し、平和を確立していきましょう。また、共通の家を危機に陥れる様々な課題が複雑に絡み合う現実の中で、神の平和を実現するために、幅広い連帯の中で、地道に取り組んでいく決意を、戦後75年の平和旬間にあたり、新たにしたいと思います。