教区の歴史

教区の歴史

日本弁護士連合会 シンポジウム「安全保障法制の問題点を考える」リレートークでの岡田武夫大司教によるスピーチ

2015年07月27日

日時:2015年7月15日(水)18時~20時
会場:弁護士会館2階 講堂「クレオ」

司会: 日本カトリック司教協議会会長で、東京教区大司教の岡田武夫さんにお話しいただきます。お聞きしましたところ、日本のカトリック教会は、戦前・戦中の戦争への協力を痛切に反省し、戦後50年、60年に平和を守るためのメッセージを出されました。今年は戦後70年にあたり、2月には護憲と平和を守るためのメッセージをあらためて出されたとのことです。岡田さんには日本のカトリック教会の護憲と平和を守るための基本姿勢と今までの活動をお話しいただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

 

岡田大司教のスピーチ

岡田でございます。今日、このような機会を与えてくださったことを心から感謝申し上げます。

今日、強行採決が行われた。大変残念に思い、また強い不安を感じております。

日本国民として、またキリスト者として、わたくしは日本国憲法、その平和主義、9条、そして前文を大変、誇りとして今まで歩んで参りました。

カトリック教会は全世界ネットワーク、いろいろな機会に他の国のかたがたとお会いします。もちろん、アジアの隣国、韓国、フィリピン、中国、そして遠い国々の人たち、そしていろいろな機会に「日本の平和主義、日本は戦争をしない国、戦争をしないことを憲法でうたっている。素晴らしい」という旨の言葉をいただきます。

それが今、戦争をする国、戦争をしてもいい国になってよいでしょうか。絶対、それはいけないことであります。

憲法9条を改悪して戦争ができるようにしようとしていくのかなと思ったら、今度は集団的自衛権行使という解釈、そしてその解釈に基づいた、戦争ができる法案を通す。多くの国民が理解できない不安を感じている。そして憲法学者も99%の人が反対しているのに、どうしてこの法案を通すのか、まったく理解できないのであります。日本国民として大変残念に思う。

今日はカトリック教会として一言、言うようにということでございます。「戦争しない、と、そして隣人を愛する、敵を敵としてではなくて、同じ人間として大切に思うように」、それがわたしたちの信じるイエス・キリストの教えであり、聖書全体を貫いている考え方であります。

そして、教会の教えの中に、50年前に開かれた第二バチカン公会議という大切な会議がございましたが、このときに、わたしたちは自分たちだけのこと、教会の中のこと、あるいはお祈りとか教えとかいうことだけでなく、現代の世界の状態に深い関心を寄せ、そして人々の幸福と平和のために献身しなければならないということを確認したのであります。

戦争をしないということは福音、つまりイエス・キリストの教えから直接出て来る、いたって当然の考え方であります。

ところが、残念なことですが、わたしたちキリスト教徒はこの教えをいろいろ、それこそ解釈をして、場合によっては戦争をできる、戦争をしてもよいというようにしてきた歴史があるとも思います。

ヨハネ・パウロ2世という法王がおりました。大変、偉大なかたであります。このかたが紀元2000年を迎えるに際して、世界中の信者、そして世界中の善意の人びとに書簡を送りました。

ご存知でしょうか、ヨハネ・パウロ2世というかたはポーランド人です。若いとき、戦争の中で苦しい毎日を過ごしたかたです。そして、教会は2000年という記念すべき年を迎えるためには、しなければならない大切なことがある。それは反省するということでした。

そして、反省する範囲が非常に長いというか広いのですけれども、この千年間、過去千年を振り返って、どういう点が一番問題であったかということを述べましたが、その中に、この戦争のことが大切なこととして出て来ます。

「わたしたちは、戦争はいけない、戦争を止めなければならないのにそうしなかった。あるいは、そうなることにはっきり気づかなかった。あるいは、心配なのに何も言わなかった。そして、このような悲惨な結果を招いてしまった。あるいは、招いたというのは言いすぎかもしれないが、協力してしまった。このことを心から悔い改めなければならない」、そう言われたのです。

ちょっと個人的なことで恐縮ですが、1995年、もう20年も前ですけれども、わたくしはヨハネ・パウロ2世とお会いする機会があった。

そこでついお尋ねしたのです。「教皇(法王)様が今度おっしゃっている、全体主義政権が基本的人権を蹂躙したことについて、教会は深く反省しなければならないと言っておられますが、もちろん、ドイツ、イタリアのことがまず第一番でしょうが、日本のことも入っていますか」と聞いたら、「え、日本」と一瞬、息をのんでおられましたが、日本という国のことが視野に入っていたかははっきりしません。

けれども、わたしたち日本のキリスト教、わたくしはカトリック信者でありますが、自分たちがアジア・太平洋戦争のときにどういう態度をとったのかということを反省いたしました。

そして、戦争が終わってちょうど50年目に反省の意を込めた平和のメッセージというものを出しました。60年後の機会にも出しました。また、今年は70年、普通は8月に発表するのですけれども、今、非常に雲行きが怪しいということで2月に発表いたしました。

さらに、その中で日本国の憲法の精神は本当に福音的なもので、イエス・キリストの教えそのものである、ということを率直に表明いたしました。

日本の中でキリスト教徒は非常に少ないです。ところが、憲法が非常にキリスト教的であるというのは不思議な感じがいたします。それはともかく、この憲法の基主である平和についての規定を守る、広めていくことがわたしたちの使命であると思います。

70年間、日本は戦争をしない国だということで、他の国からも信頼を勝ち得ていた。そこがだんだん危なくなってきていると思います。

聖書の中に預言者という人が出て来るのであります。預言者というのは勇気を出して神様のことば、神様のみ心を人々に語る人のことなのです。預言者は迫害され、そして殺されたりしました。教会はこの預言者の任務を持っている。

ですから、「これはどうしてもいけないことですよ。神様のみ心に背くことですよ」と思ったら、自分の身を守るために黙っているのではなくて、はっきりと言わなければならないと思うのであります。

集団的自衛権という言葉が何を指しているのか、国民の理解が得られていないのに、どんどん前に進めようとしているこの状況は大変、危ない、そしてよくないことであると思います。

わたくしは一人の日本国民として、そして一人のキリスト教徒として、この日本国憲法の理念、理想をしっかり守り、そして多くの人に伝えていかなければならないと思っています。

わたくしはカトリック教会に属していますので、全世界ネットワーク、その中で今いただいている評価、これをしっかり守る、そしてさらなる、この日本国外の仲間と手を握り、力を合わせて、ぜひとも日本国憲法の平和の理想をしっかり守り、そして推進していきたいと考えております。

いろいろな主義、主張、宗教の違いを超え、人類共通の目標、生命の尊重、そして人間の尊厳を守り、進めるために、皆さん、力を合わせて歩んで参りませんか。

よろしくお願いいたします。